モゴローなんちゃって日記

      フォト短歌、影、心に浮ぶ言葉たち。

白浜温泉から始まる物語

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(2021/1/30  また手袋落ちてる。…本文とは関係ありません。) 

始まりの記憶をいつも語り出すそれを奪うは君を奪うこと

 

病院に行くと、初診時や前回から間が空いた時には「問診」をとられますよね。

「問診票」に記入し、そして、その問診票を元に、看護師さんや受付けさんから更に詳しく問診を受けるパターンが多いと思います。あらかじめ必要な情報を上手く得ることはスムーズな診察につながります。病院によっては、問診から必要な検査を割り出し、ある程度検査をしたうえで患者さんに診察室に入ってもらうこともけっこうあると思います。

眼科も同じで、私も毎日問診をとります。「見えにくい」「痛い」「かゆい」「コロコロする」「赤い」…などの症状。そして発症時期。右目か左目か両目か。

同じ「視力低下」でも、今朝9時から急に見えなくなりました、と言うのと、5年前からちょっとずつ見えなくなってきました、と言うのでは全然違います。それだけで推測される病気は分かれます。視力低下の場合、急性発症の方が緊急性は高くなると言えるでしょう。

近視・遠視や老眼のように単にピンぼけ状態の「見えにくい」と、網膜に病変が起きて、歪んで見える、見ようとするところが暗く見えないという「見えにくい」も全く違って、患者さんの話を聞いていると、どっち系の病気かは大体わかります。ちなみに、通常の近視・遠視・乱視と老眼は、基本的には「病気」の範疇に入らないと言えます。

 

よくあるのが「チカチカする」。逆まつげなどが目に当たってチカチカ痛いのか、光がチカチカと光ったように見えるのか。

あと、これは関西特有の言い方なのでしょうか、「うっとうしい!」。これ、本当によくあります。

「今日はどうされましたか?」「うっとうしい。」

う…ん、どこがどううっとうしいのか、それを言ってほしいんだけど。人生うっとうしいが多発するけどさっ。でも、目のうっとうしいの場合、とりあえず大変な病気ではないことが多いです。

そして、これも関西だからなのだろうか。

全身疾患についても、糖尿病や動脈硬化などは眼疾患にも関係あるので聞きますが、おじさんの一定割合の方が「悪いのは頭だけ」と答えてくれます。はいはい、そうですか。「悪いのは顔だけ」これもありますね。両方合わせ技で来る人もいます。あ、でも昔に比べると減っていますね。たまにおばさんが言ってくれることもあって、さすが大阪の人やな~と感心します。

 

必要な情報をできるだけ短時間で的確に聞き出す。それが問診の目指すところですが、患者さんによっては、人生お悩み相談みたくなっちゃうこともあります。

「嫁が、嫁が玉ねぎ切れ言うてね。目痛い(めーいたいー)言うてんのに、玉ねぎ切らすんですわ。もう、かなんわ。玉ねぎ切ったらあかんって言ってもらえんやろか。紙に書いてもらえませんか。」切実な訴え。

「そうなんですね。カルテに書いておきますから、診察室で先生に直接聞いて下さいね。」

 

そして話の長~い人。患者さんが少ない時はゆっくり聞いてあげたいですが、初診・再診・予約検査、どれもカルテが山積みの時はそうも言ってられません。

こんなことがありました。60代くらいの男性でした。主訴は視力低下だったと記憶します。どちらの目か聞いて、「いつからですか。何日前とか、何週間前とか、何年も前とか…」。

すると、「えー、5年前に町内会の慰安旅行で白浜温泉に行って…」(ほう、温泉か、いいね。にしても、5年前?)

「宴会の時に、ぎゅーっと痛みが走ったんです。」(ふむふむ、そして?)

「しばらくしたら治りました。」(なんだ、治ったのか、で?)

「心配だったんですけど、その後も何もないので病院には行きませんでした。」(え?これはこれで終わりなのか?)

「見え方が悪くなったわけではないです。」(ならば、よかった)

「それから4年前に散歩してたら、チクー!!ってしたんですよ。」(似た展開…)

「診てもらった方がいいかなと思ったんですが、少ししたら治ってね。」(あら…)

「見えるのは見えてました。」(さっきと同じ、悪い予感!)

「で、3年前に野球してたら…」(まずい、らちがあかないパターン突入しそう)

どうも、目に起った歴史を全部語ろうとする人のようでした。この患者さんにとっては、全てがその日の目の症状につながっているという感覚があったのだと思います。実際、昔の症状、一過性で治ったと思った症状が伏線だったということもなくはないので、そういう患者さんご自身の感覚的なことを聞くことが大事なことも時にはあります。なのですが、どうもこの時は関係ないと思われ、話を切ることにしました。

ここは切らねばならない。そして、今日の主訴について関係あることを聞きだそう、そうしよう~。

「わかりました。そうなのですね。では、もう一度今回のことについてお聞きしますが、見えにくくなったのはいつからですか。」

はい、どうぞ。

「え-、5年前に町内会の慰安旅行で白浜…」

ずっこけましたね、この時は。

この方はどうしても、町内会の慰安旅行で白浜温泉に行った時からしか話し出せないのでした。私はそれを悟り、もう一度白浜温泉での宴会の話を聞いたのでした。

 

最初から順番通りに話さないと伝えられない気持ちになることはありますよね。

ある部分だけを抜き出すのではなく、最初から順番に聞くことが大切な時も確かにあります。

確かにありますが…、でも…眼科での問診の場合、長い場合はあらかじめメモにまとめてもらっていると助かります。

 

※会話の中の、散歩と野球はイメージです。随分昔のことで忘れてしまいました。

でも「町内会の慰安旅行で行った白浜温泉の宴会で…」は紛れもない真実です。忘れられない笑。