モゴローなんちゃって日記

      フォト短歌、影、心に浮ぶ言葉たち。

「見える」ということ④

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(教会の帰り。春のような日だった。)
 前回、眼科検査は自覚応答で結果を得るものが多く、代表的な視力検査も、患者さんに答えてもらうことで成立する検査であることをお話ししました。そして、「見える」とは、心で受けとめることができた後、更にそれを「言い表す」ことで完成するのではないかとお伝えしましたね。
…なんですが、いきなり(笑)、色々な事情で「言い表せない人」がいることに心が向くことになっていきます。
 言葉で上手く表現するのが難しい患者さん、苦手な患者さんがいます。認知症、知的障がいのある方、発達障がいのある方などです。認知症の方の中には、輪っかの切れ目は答えにくいけれど平仮名だと答えられる方がけっこういます。知的障がいや発達障がいのある患者さんの場合も、答え易い方法がないか工夫を考えます。一緒に来られたご家族の協力で、その方独特の答え方がわかることもあります。例え視力検査の応答が難しくても、他の検査や医師の診察で病気の有無はわかりますから、治療に支障を来たすことはそうありません。
 片眼が悪くなっても、他眼が良ければ生活に大きく影響しませんが、両眼見えなくなると困ります。ご家族が「どうも最近見えていないようだ」と言って連れて来られる時があります。ご飯の時、テーブルに並んだ料理がわかっていないようだ。新聞を全く読まなくなった、など。その方が言葉で言わなくても、その様子を見ているとわかるのですね。
 そして「詐盲」です。ごくたまにですが、「詐盲」?と思われる患者さんが来ます。眼科版詐病です。事故で目をケガをしたとして、その保険金などを得るために、ケガは治って見えているのに見えないと言う人のことです。仮病ですね。その人がどのくらい見えているのかの指標は、やはり視力検査になり、書類上も必ず必要になります。
 全ての詐盲を見破ることができているのか、正直わからない面もありますが、保険金などを得るためにはかなり悪い視力でないといけないのか、微妙な視力の悪さは演じにくいのか、今まで私が経験した詐盲の人というのは、明らか~に悪い視力、例えば、大きな輪っかが50㎝くらいでないとわからないとか、手を振っているかどうかしかわからない…くらいの悪い視力だという応答をしてくる人が多かったです。
 微妙な視力の巾、白内障の程度からするともっと視力が出そうなのに出ないな…などは、日常的にあります。詐盲は、そういう微妙な巾の範囲を超えたところで、他の検査結果や医師の診察所見と明らかに合わないことでわかってくる、みたいな感じになります。何より、書類(診断書)目的で受診して来るので、それでわかりますね。 
 詐盲が疑われる場合、視野検査や色覚検査など、自覚応答で行う他の検査をしたり、あの手この手でもっと見えている結果が出ないかやってみますが、はっきりとした視力値はわからないままのことも多いです。
 ただ、明らかに悪い視力応答をする人の場合、その人の姿、動きを見るだけでわかることがあります。詐盲の場合、片眼のことが多いように思いますが、わかりやすくするため両眼だと思ってください。実際両眼詐盲の人もいました。
 例えば視線が合うかどうか。俳優さんがドラマで視覚障がい者役をするのを見ると、話し相手から視線を逸らしていますね。そうすることで見えない方のように見えます。本当に見えない方は、声の方向を向いてくださいますが、ばっちり視線が合うことはありません。 
 また「動き」です。見えない方でも経験や訓練があれば、上手に歩いたり椅子に座ったりされますが、それでも眼科での検査機器に座ったり、顎を台に乗せたりする時は手で探りながら、時にぶつかりそうになることもあります。
 ところが詐盲の人は、名前を呼んだ時に、あれ?今一瞬視線が合っちゃったよね、みたいな。検査機器に誘導される時も、ここで検査するのは初めてなのに、ぶつからないように上手く避けることができている。なんかおかしい。そうなのです。見える人が見えない人の振りをするのは相当難しいことなのです。
 視力検査で得られるような細かな見え方の差まではわからないですが、生きるうえで最低限必要な見え方をしているかどうかは、その人の姿、その人の行動を見ればわかるのだと思いました。そして、それがわかるのは、私が見えているからなのです。
 その人が見ていることと、その人が見えていると思っていることが合致すること、そして、それを言い表すことができるのはとても大事だと思います。それは人の健康な姿だと思います。
 でも、色々な事情で言葉では言い表せない人もいるでしょう。いつもはできるのに、時に言い表せないことがあるかもしれません。でも、見える人は見える人のように生きている。そう見える。

「その人が見えているかどうかは、見える人にはわかる」のだと思うのです。

 

心因性視力障害と同様、詐盲疑いの時も、器質的疾患がないか医師は慎重に診断します。
※その人の答えてくる視力によって、様々な検査を試みます。
ややこしいのは、元々眼疾患があってそこそこ視力の悪い人が詐盲態勢に入ったときです。正直わかんなくなります。

 

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