モゴローなんちゃって日記

      フォト短歌、影、心に浮ぶ言葉たち。

レンブラント「放蕩息子の帰還」③

 前回、斜視の手術適応なのに放っておかれている人がいると言いました。え、それで大丈夫なのかと思うかもしれませんが心配しないで下さい。斜視は眼疾患の中でも「機能面」の疾患・障がいになるのだと思います。人の目玉は片眼6つの筋肉によって動いています。何らかの原因でこの眼筋のバランスが崩れると両目の視線が合わない斜視になるということです。なので放っておいたからと言って失明するとかではありません。斜視手術のイメージとしては眼筋を切ったり貼ったりする感じでしょうか。目玉の中を触る白内障緑内障、網膜疾患などとは違うわけです。斜視専門の眼科医が少ないのもそういったことが関係するのかなと思います。外科医としての醍醐味に欠ける…みたいな。他の眼疾患は「見えるか見えないか」「どのくらい視力が回復するのか」という話になりますが、斜視の場合片眼ずつの視力は関係ありません。あくまで両目を開けた時の見え方、機能面の問題にどうアプローチするかなのです。優先順位としては後回しになります。でも、いくら視力が良くても両目で見たときの見え方に支障が生じると生活上とても困ります。眼科の領域としてはマイナー分野ですが、斜視専門の眼科医がもっと増えるといいなと私は思います。
 大人になって急に斜視になると「複視」と言って物が2個見えるとお話ししましたが、はっきり「2個見える」と言う患者さんばかりではありません。斜視の角度が小さい時はほんの小さい像のずれだからでしょうか、「二重に見える」という言い方をする人が多いです。この「二重に見える」という表現はとてもややこしいです。近視・遠視・乱視でも眼疾患でも二重(何重)に見えます。片眼で見て二重なのか、片眼だと一重だが両目だと二重なのかが重要です。「二重に見える」とさえ表現しない患者さんもいます。眼鏡処方の時、両眼とも視力は出ているのにどうもすっきりしない様子なのでカバーテスト(7/3参照)してみると微量の斜視だったということが時々あります。よく聞いてみると何年も前からだった。それまでのカルテには書いていない。単なる視力検査ではわからないのです。私自身見逃していたことが多々ありました。更にややこしいのは、屈折異常(近視、遠視、乱視)があったり、それを完全矯正しても白内障などでだぶり感が残る(「単眼複視」)の人の斜視です。片眼でも二重だし、両目でも二重。どっちの二重もある。二重の二重です笑。同じ「二重」でも「別の話」なわけですが、これを患者さんにわかってもらうのに苦労することがあります。
 大人の急な斜視の原因は眼筋を司る神経の障がい、または眼筋そのものの障がいが考えられます。脳疾患が原因で起る場合があるのでとりあえずは脳の検査をお勧めします。検査しても原因不明で終わることが多いですが念のため。昔勤めていた病院で、急に眼筋麻痺を起して大角度の斜視になった人が初診で来たことがあります。CTに回したらなんとくも膜下出血で即入即オペ(そのまま入院して緊急手術)になりました。普通は目より他の症状で内科などを先に受診するでしょうから珍しいパターンだったとは思います。
 今のクリニックで複視を訴える患者さんがいました。検査上斜視角度は小さいのでプリズム眼鏡(プリズムで光の進路を屈折させます)をトライしたのですが上手くいかない。でも生活上そんなに困ってなさそう、高齢だし。何となく、そのまま様子みましょう…で終えました。1年後くらいにまた来られたのですが、通院している内科から大学病院の神経内科→同眼科に紹介されて斜視手術を受けて楽になったと。私は視能訓練士として自分を恥じました。本当に申し訳なかったと思います。この方は内科の先生によって救われましたがそうでない人も実はいっぱいいると思います。

 ということで今回は視能訓練士話になってしまいました。次回はレンブラントとヘンリ・ナウエンの「放蕩息子の帰郷」に戻ります。
①②は以下からどうぞ。
レンブラント「放蕩息子の帰還」① - モゴローなんちゃって日記 (hatenablog.com)
レンブラント「放蕩息子の帰還」② - モゴローなんちゃって日記 (hatenablog.com)
次はこちらへ。
レンブラント「放蕩息子の帰還」④ - モゴローなんちゃって日記 (hatenablog.com)