モゴローなんちゃって日記

      フォト短歌、影、心に浮ぶ言葉たち。

一杯飲み屋でうどんを食べた夜

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 2ヶ月前までは毎日のように自転車で走っていた道、仕事の勤務体系が変わってしばらくぶりに今日通ったら、一杯飲み屋さんのシャッターにテナント募集の張り紙があった。閉店していたのか。気づいてなかっただけで閉店はもっと前からだったのかもしれない。いつも通るのは昼間の時間帯で飲み屋さんとしては準備中なわけであり、そもそも「開店」してるかどうかわからない雰囲気だった。随分昔、娘が保育所の年長さんだった頃、実は一度行ったことがあった。
 娘は週1回ピアノ教室に通っていて、当時はレッスンに私も付き添っていた。一時期その帰りに時々うどん屋さんに寄って夕食を済ませていたことがある。贅沢な話だが(笑)、なんだか、しんどい…時期だったのだ。近所に気に入ったうどん屋さんが一軒あったが、レッスンの日がお店の定休日と重なって困る時があった。ある夜、そう言えば毎日通る道に「讃岐うどん産地直送」みたいに書いてあるお店があったなぁと思いついた。飲み屋だが昼間はうどん屋になるらしかった。昼間やってるのだから夜もあるだろう、うどんが。と、行ってみたのがこの店だった。
 灯りはついているが磨りガラスの窓から中は見えない。ちょっと勇気が要ったが思い切ってガラガラと戸を開けた。カウンターだけのお店。女将さんと常連客らしいおじさんが一人いて、観たことはないけれど高倉健の映画のワンシーンだ。戸を開けた瞬間、私と保育所のリュックを背負った娘、そして女将さんとおじさん、4人の目が点になったのがわかった。「…え」皆が心の中で言った、ように思う。女将さんは普通に優しそうな人で、ちょっとびっくりしつつも、いらっしゃい、みたいなことを言ってくれたと思う。私は娘と並んでカウンターに座った。紙に書いたメニューが壁に貼ってあって、私は自分用に親子丼、娘にはきつねうどんを頼んだ。なぜだか親子丼の方が先に出来て、きつねうどんにえらく時間がかかった。産地直送のうどん玉は冷凍なのだろうか。だとしてもなぜそこまで時間がかかるのかわからなかった。待っている間にテレビを見ていたおじさんが「好きなチャンネルにしていいよ」とリモコンを渡してくれた。そして、昼間パチンコでゲットしたと思われるチョコレートを娘にくれた。ありがとうごさいます。
 女将さんもおじさんもそれ以上何も言わなかった。いつの季節だったか忘れてしまったけれど、夏ではなかった。静かな夜だった。