モゴローなんちゃって日記

      フォト短歌、影、心に浮ぶ言葉たち。

歌集「林の風に」

高島志保美さん(日本キリスト改革派神港教会員)の歌集。
 著者は9歳の頃、結核を患い1年間学校に行けず読書をして過ごしたという(序文より)。その時に小倉百人一首に親しんだそうです。最近の短歌は口語体が主流でリズムも自由過ぎるのがありますが、高島さんの短歌は文語体が多いです。その言葉は知的で美しく、そして芯の強さのある印象を受けます。同時に、その内容には揺れる心が表れているように感じました。高島さんの日々の生活が年代順に配列されています。一人息子の成長(母はこんなにも感じて見ている)、ご自身の病、夫のこと(入院中の夫へのお見舞いにふと過ぎる思い)、お隣さんのこと、教会のこと、世の中の出来事(二つの地震。戦争に対する考えはきっぱりと)、それらが別々ではなく高島さんの人生に纏わりついて全体を形作っているのが伝わってきます。
 以下、私がいいなぁと思った作品です。どれを選ぶかとても迷いましたが今夜の気分で。

「お母さん」吾を呼ぶ声のいつよりか低く間遠になるをさびしむ
職場にて吾を欺きし人の今真昼の駅に赤児抱けり
子はもはや吾を頼みとなさざれば紅きプラムをハムスターと分く
原爆の投下は是なりと説く人に強く短く「NO!」と答えし
ゆがきたる菜の花のみどりに安らぐは友の嘆きを聞きし一日よ
身のうちに真珠宿せる貝のごとく痛みし骨を包みて眠らん
複雑な幾何学模様のセーターを母編み給う離れ住む吾に
野分去りし後の風に乗せ「哀しい」とう言葉放ちてみたり
読み継ぎし『ローマ人の物語』生れて滅ぶるものみな哀れ
憂きこともやがては一生の泡とならんジャグジーの湯を見つめて思う
亡き人は静かに眠らしめよとて夫言いたればわれは俯く
秋の陽を浴ぶる残名のゼラニウム蕾のままに枯れゆくもあり

微笑みのその先にある若い死を知らず少女の瞳輝く(クララ・ルーベンスの肖像)
私もこの絵を見ました。瞳は本当に輝いていますね。

青磁社 2014年