モゴローなんちゃって日記

      フォト短歌、影、心に浮ぶ言葉たち。

110番通報!

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(1週間前。帰り道。)

質問に答える吾の目をじっと見るその瞳こそ君の質問

前回、病院で問診をとる側の話をしましたが、今日は逆に質問される側のお話です。
110番通報をしたことはありますか。私は2回あります。7年前が初めてでした。

ある夜仕事から帰って来ました。自転車で通う近くのクリニックでの勤務が終わり、19時過ぎだったかな。やれやれ…と自転車のスピードを落としながらマンションの駐輪場に入ろうとしたら、上の方からいつもとは違う異様な気配を感じました。駐輪場は各戸の玄関ドアが並んでいる廊下側に面しています。古いマンションで、玄関が並ぶ廊下の外に面した壁はコンクリートではなく、柵みたいなのです。なので、廊下を歩く人、玄関を出入りする人の姿が外から丸見えになります。
え?え~!な、なんか、二人の男性が揉み合っている。二人とも若くて、しかも背が高いのです。5階。胸ぐらつかみ合って、ウォーってすごい力で一人がもう一人を柵の壁に押しつけて、その人は後ろへ反り返る、そして、それが代わる代わる交代する。ドラマみたいだ。とにかくすごい勢いです。若さってすごい。柵から背の半分くらいはみ出てるよ、落っこちそうだよ。
こ、これって何?ただのもめ事だよね。いや…いやいや、このまま転落したら、そして死んだら「殺人事件」じゃ~ん!!目の前で殺人事件が起きそうなのに、このままでいいのか。5階まで行って止める勇気はない、そんなの無理。周囲に人はおらず相談もできない。って、そんなこと思っているうちに転落するかも、ひぇ~。何もしないままで殺人現場に居合わせることになればきっと後悔する。ということで、慌てて携帯を取り出して人生初の110番通報へチャレンジ!かーけちゃった、かけちゃったー。

電話口に出たのは中年以降と推測される女性でした。第一声は覚えていませんが、とにかくすぐに最初の質問です。
「事故ですか?事件ですか?」
「け、けんかです~!!」
「外ですか家の中ですか?」
「マンションの廊下です、5階ですぅ~!」
「男性ですか?女性ですか?」
「男性です。」
「何人ですか?」
「ふ、二人です~」
「何か凶器になるようなものを持っていますか?」
「いえ、持ってません。こう、胸ぐらを押さえて、廊下から落ちそうなんです~」
と、まあこんな感じでした。

このやり取りのどこかで、マンションの5階です…の後くらいだったかな、住所を聞かれました。そして「もうそちらへ向かっていますので(だから、慌てなくていいので続きの質問に答えてくださいね~)。」というのがありました。
年齢も聞かれたかもしれません。私ではなく、けんかしている二人のね。若いです!

と、ここまで答えていたら、5階のある家の中から年配の男性が出て来て、二人を止めに入りました。いい加減にしろ、みたいな感じで。
「あ、中から人が出て来て、止めに入って、あ、収りそうです…」
「あ…、もう大丈夫みたいです」となりました。

すると、それでも一応行きますとのこと。そして、後で話を聞くかもしれないので家と電話番号を教えて下さいと言われました。その時には、三人ともだったか、けんかしていた二人の一人はどこかへ行って、残りの二人だったかが家に入って行くのが見えました。そのままでは警官が来てもわからないので、しばらく待っていたら、バイクに乗って一人警官の方が来て話したのだったと思います。
その後どんなふうに調査したのかはわかりませんが、少し経ってから警官さんが私の家に来て報告してくれました。「兄弟げんか」だったそうです。
そうなんだ。でも、人類初の殺人事件も兄弟げんかだし…カインとアベル。親子、きょうだい、家族って近い関係だけにこじれると厳しいものがあるよね。同じマンションの階違いの家庭では、こんなことが日常的に起っているのかもしれない。なんて思いつつ、とりあえず殺人事件だけは回避できてよかった~と思ったのでした。
そして、通報電話での対応に感心しました。訓練を受けているのでしょうね。慌てている相手から、必要な情報を最短で得らえるような質問をしてくる、してくれる。二者択一の質問。順番も的確。そのまま答えたらいいだけ。素晴らしい。

答えやすい質問の仕方をすることは大切ですよね。
問診の「いつからですか?」も、答えにくい患者さんは多いです。急性発症の場合は、昨日からとか3日前からとか答えてくれますが、そうでもない時、う…んと考えて黙っている。その時は「大体でいいですよ、何日前なのか、何ヶ月前なのか、何十年も前なのか」と言うと、答えてくれます。年単位になってくると、中高年以上の方なら、何年前?という聞き方より、何才代からですか?と聞く方が答えやすくなります。

あと、これは誘導尋問みたくなるのですが、眼科で子どもに聞くときの私の経験です。
適切な矯正レンズ(眼鏡)をかけても視力が出ない弱視の子どもの場合、眼鏡を装用したり、片眼だけが弱視の場合は、視力の良い方(健眼)に絆創膏のようなシールを貼って見えないようにして、弱視眼の視力発達を促す訓練をすることがあります。
毎回の受診時には、指示通り眼鏡をかけているのか、健眼にシールを貼っているのかを聞くことになります。日記のように表に記録してもらう病院もありますし、もちろん親御さんの話も聞きます。
そして、子ども本人にも聞きます。大きくなってくると、大人の見ていないところで勝手に外していることもありますから。

昔の私は、単に「眼鏡かけてるかな?」と聞いていました。「うん」と子どもは頷きます。そう、よかった。
しかし…。自宅近くのクリニックに勤務するようになって、近くのスーパーで、すぐそこの道で、患者さんとすれ違うようになりました。弱視治療中の子どもも見かけます。すると、え!あれ?〇〇くん、眼鏡かけてないじゃん!この間来たときは「かけてる」って言ったのに~。そういうことが徐々にわかってきました。
私も賢くなって笑、子どもに質問するときにはこう聞くようになりました。
「眼鏡外す時はどんな時かな?」「…」
「お風呂に入る時は外すよね」「うん」
「寝るときも外すよね」「うん」
「じゃあ他に外す時はいつ?」と質問するのです。この流れでいくと、本当にかけている子どもは首を振りますが、他にも(本来はかけていてほしい時に)外している子どもは、ひっかかって「友達と遊ぶとき」とか、答えるわけです。
こういう質問の仕方をする時は心苦しさも感じます。その子ども自身が言いたくないであろうことを聞き出すのですから。でも、治療のためには仕方ないかな、許してね。
そして、たとえ指示通り「かけていない」時間があったとしても、怒ったりはしません。その子どもの生活状況、親御さんの様子なども考え、できるだけ時間を延ばせる工夫ができないか考えるようにしています。

どんなふうに質問するかで、相手の答え方も変ってきますね。110番通報や病院では、はっきりした目的があるので、そのための仕方がありますが、普段の会話はどうなんだろう。話しやすい人というのは、もちろんじっと耳を傾けて聞いてくれる人だと思いますが、その合間で、こちらの言葉を引き出してくれるようなことをふと言ってくれる。そんな人のように思います。