モゴローなんちゃって日記

      フォト短歌、影、心に浮ぶ言葉たち。

レンブラント「放蕩息子の帰還」⑤

 前回から半年以上経ってしまいました。
 ヘンリ・ナウエンの「放蕩息子の帰郷」(あめんどう)の続きです。ナウエンはレンブランドの絵から膨大な黙想をしているわけですが、その中で、父の「盲目」という点に大きく注目しています。視能訓練士の私がこの絵の父の「右眼廃用性外斜視」という新説(?)を唱えたのが①~③の話で、前回④ではナウエンが父の盲目の程度を?「半盲」と表現していて(英語の原文はわからないですが、多分その意味だと)、それについて一言言いたい!というところで終わっていました。

 この絵の父が視力の弱っている老人として描かれているという認識は既にあったようで、ナウエンもそのように見ています。右眼が外斜視になっているため、専門知識がなくても、なんとなくそっちの目が悪いのだろう。片眼が悪いので「半盲」という言葉を使ったのかもしれません。または、見えている人の半分くらいしか見えていないという意味での表現かもしれませんね。ここで眼科的な「半盲」の説明をしますと、半盲と言うのは「視野」についての事柄だということです。
 考え方の範囲が狭い人を「視野が狭い」と言ったりしますが、眼疾患の症状として実際に視野が狭くなる、視野が欠けるものがあります。視野が欠けていく代表的なものが緑内障です。画像診断技術が進歩して、緑内障初期?緑内障予備軍?が早くわかるようになったため、けっこうな人が「放っておいたら視野が欠けて失明します」みたいなことを言われているのではないでしょうか。緑内障は「眼圧」が直結する病気ですが、眼圧とは目の球状を保つための内側からの圧力だと思って下さい。私は患者さんに「目の硬さです」と説明します。ビーチボールを膨らませるとき、空気が足りないとペコペコになり、いっぱい入れるとパンパンになりますよね、そんなイメージでしょうか。眼圧が高くなって視神経を痛めるのが緑内障ですが、人によって視神経の強さが違うので、眼圧の数値だけで良い悪いは決められません。そこのところは医師によく聞いて下さい。とうことで、緑内障と診断されると眼圧を下げる目薬が処方されます。
 緑内障は医師の診察(診察室で光を当てて診るやつ)や画像診断だけでは視野がどのくらい欠けているかがわかりにくいため「視野検査」がつきものです。「目を動かさないで!」と叱られながら検査を受けたことがある人がおられるでしょう。目を動かすと検査の意味がなくなるんですよ…って、私もいつも言います。でも動く人がいっぱいいます笑。
 網膜剥離や眼底出血でももちろん視野は欠けますが、医師が肉眼で(レンズを使って)診て、どこがどのくらい見えないかがわかりますし、視野検査をしたところで治療方針が変わるわけでもないのしません。
 他にも視野が欠ける疾患として脳疾患からの視野障がいがあります。ここからがようやく今日の話です。目から入った光の情報は、「視神経」を通って、「大脳」に入り、「後頭葉」で処理されます。この信号の通り道は「視覚路」と呼ばれ、頭の病気で視覚路のどこかが障害されると視野が欠けて見えなくなります。腫瘍で圧迫されるとか、脳出血脳梗塞など。視神経は、網膜からの信号が耳側と鼻側の半分ずつに分かれて右脳と左脳に届く仕組みになっているため、視野が半分ぱっかり見えなくなる「半盲」が生じる時があります。眼科で「視野」と言えば、断りがない場合は基本的に片眼ずつについて言うことだと思って下さい。「右同名半盲」は両眼とも右半分の視野が見えなくなります。「両耳側半盲」は両眼とも耳側(外側)半分が見えないということになります。

「現代の眼科学」(金原出版社)より

 眼科での視野検査が発端で脳腫瘍がわかることがあります。現在は画像診断が進歩しているため減ってはいると思いますが、私も経験したことがあります。どうも視力の出が悪い。先生の診察や網膜画像診断では説明がつかない。私が視野検査に当たりました。眼科クリニックにある視野検査は器械が自動的にしてくれるものがほとんどですが、昔からある手動式の視野検査なるものがあり、大きな病院では今もあります。その時はそうでした。検者の経験がものを言う検査です。すると、その患者さんは明らかにぱっかりではなかったのですが、最後のところで微妙に怪しい。私はカルテに「中心部での半盲が疑われる」と書き加えました。結局、その患者さんは脳腫瘍がわかって手術になりました。  
 話は逸れますが、後でその結果を聞いた私はうれしくなった、なってしまったのを思い出します。患者さんの脳腫瘍が早くわかってよかった…というのではなく、これによって私の検査の腕が認められたからです。新しい職場に移って間もなくのことでした。ああ、私の出した結果は合ってたんだ~、とうれしくなったのです。患者さんにとっては間違いの方がよかったのに。正しい検査結果を出すのが仕事であり、逆の間違いはあってはならないで、これでよかったわけですが、時々思い出します。

次回は、結局半盲なのかどうなのか。
レンブラントも斜視だった?片眼が悪かった?

前回まではこちらへ。
レンブラント「放蕩息子の帰還」④ - モゴローなんちゃって日記 (hatenablog.com)
レンブラント「放蕩息子の帰還」③ - モゴローなんちゃって日記 (hatenablog.com)
レンブラント「放蕩息子の帰還」② - モゴローなんちゃって日記 (hatenablog.com)
レンブラント「放蕩息子の帰還」① - モゴローなんちゃって日記 (hatenablog.com)